1泊2日で、修善寺に「ちょっとリフレッシュ」に行きました。
「湯回廊 菊屋」という旅館へ。創業350年。えらく歴史のある旅館です。
“古けりゃ良いってモンじゃない”というのは世の慣わしで、ただ古いだけ
なら興味も無かったのですが、なんだか大規模に手を入れてリニューアル
オープンしたとのこと。
経営が傾きかけていたところに、資本が入ったみたいです。星○リゾートに
よる旅館再建プログラムみたいなものかな。
料金もまあまあ手頃、宿泊者のネット評判も良かったので行ってみました。

表玄関(入り口)です。ここは以前のままみたい。洒落てはいません。
ここから入って、渡り廊下を歩いて桂川を渡り、川向こうに旅館があります。

何かよくわかりませんが、八角形の建物があります。中は喫茶室になっています。

館内の廊下。「レトロ~」です。でも、ロココ調みたいな椅子、新品です。
油断禁物です。

右の窓の外は、大きな池&日本庭園になっていて、この庭を囲むように回廊が
廻らされています。随分広い敷地に客室は42室ほど。贅沢な作りです。
敷地の広さだけでいったら、修善寺でも一番じゃないのかな。

外の回廊。そばを流れる小川には、ホタルが舞うそうです。

中廊下。レトロー。湯治場みたい。湯治場と言えば、その昔夏目漱石が結核の
療養に滞在したのが、この菊屋旅館なのです。

と、思いきや、突然中庭に面して“新しい資本による”テラスが造作されています。
何気でいい感じです。

通された部屋は「離れ草庵 響の間」。離れ形式で新築された8室の一部屋です。
部屋の全体図が撮り難く困りました。これは、リビングスペースの方。
変わってるぅ。杉板の床に、座椅子風ソファ。窓の外には、濡れ縁風テラスが
あって、安楽椅子が置かれています。

その(撮影)場所で後ろを振り向くと、こうなっています。何とベッド。
部屋の広さは、10畳+6畳+水回り類(露天風呂もある)という感じです。
天井が高い。

部屋つきの露天風呂。何でも新しくて清潔です。新築マンションの匂いが
しました。

露天風呂からは、庭園が眺められます。
最初、「向こう側の建物から丸見えではないか!」と焦ったのですが、こちらに
面した側の窓は全て「はめ殺し」にして開かないようになっているそうです。
向こう側の建物、古いのであまり美しくありません。一部倉庫のようなものも
見えるので、部屋の露天には、夜に入る方がいい気分です。
いや、でも入ってみるとかなりいい感じ。随分長湯してしまいます。

濡れ縁と露天風呂は、直接行き来できるようになっているので、のぼせてきたら
この椅子で涼んで、またお風呂に浸かります。
さてご飯だ。

先付けと前菜盛り合わせ。おっ、意外に美味しいかも!

お造りは、5種のネタから3つまで選べます。僕は、地あじ、活たい、あわび。
美味しいよ。hiyokoさんはたいの代わりに地たこ。
わさびは自分ですりおろすんですが、このわさびは葉っぱまでついている状態。
いかに新鮮かと言うこと。このわさび、これだけで酒の肴になってしまいます。

焼き物・揚げ物は、3種の中から1つ選びます。hiyokoさんは、狩野川あゆの塩焼き。
香りがあって、甘味があって、かなり秀逸。炭火で焼いて供されます。

僕はサザエのつぼ焼き。これも美味しいですねー。

洋風皿も3種から1品選びます。僕は黒豚味噌シチュー。マンゴーのソースと、
味噌風?のソース。これは美味かったー。hiyokoさんは伊豆牛のステーキなん
ですが、ステーキよりもさっぱりしていて美味しかった。

しめは、鯛茶漬け。かけるのは、ダシではなくてお茶です。相当お腹いっぱい
なので、ここでダシだとくどいかも。お茶で正解。
*ちなみにhiyokoさんは稲庭うどんにしました。
この他に、冷やし鉢、椀物、凌ぎ、強肴、酢の物など、盛り沢山。一通り食べて
足りなければ、お代わりもできます。

デザート。メロン(水菓子)、白玉、プリン。うーん。デザートはもう少し
頑張ってもよさそう。

あ、言い忘れていましたが、食事は部屋食ではなく、食事処でいただきます。
良し悪しですねー。出来立てが出せる反面、他のお客さんが気になったり。
これは食事処(半個室)からの庭の眺め。竹は、お酒のとっくり。
ふー、おなかいっぱい。
こちらのシステムは、コース全体のうち、4品についてはお好みで選べる
んです。どちらかと言うと、そういうチョイスより、一品一品「これぞ!」と
言うお皿を出してもらう方がいいと思いますが、たまにはこういうのも楽しい
かも。とにかく、料金相応以上の満足感はありました。
さて翌日の朝ごはん

和食と洋食から選びます。僕は和食。真ん中のお皿には何も乗っていませんが、
この後、干物の焼き物が運ばれてきます。焼き物は、例によってチョイス制。
僕はあじの干物と、いわしのしょうゆ漬け。
それから、面白いシステムとしては、卵料理は自分で陶板で好きなように焼く
(炒める)システムになっています。
うーん。どちらかと言うと、これは焼いて欲しいぞ。

hiyokoさんは洋朝食。
さて、菊屋旅館。総括が難しいところです。レトロとモダンの組み合わせは、
上手くいっている所とそうでない所があります。でも、この広さ、歴史、雰
囲気等、ここでしか味わえない要素もタップリあります。
新築の離れは、いいような悪いような。露天(と濡れ縁の休み処)、いつでも
寝られるベッドなどいいのですが、部屋からの眺めや、設備の高級感などは
もうひとつ。
食事は美味しいです。ビックリするような演出はないので、2~3日経つと
何を食べたか忘れてしまいますが、そつなくセンスよい味にまとまっています。
ベッドを配し、食事はレストランにする事で、滞在中は呼ばない限り部屋
係は入室しません。プライバシーは保たれますが、夕食中のベッドメイクく
らいはあってもよかったかも。「宿泊客のことを考えた」、というより、
「オペレーションの効率を優先した」という印象を受けます。
そうですね、何より微妙なのは、旅館全体のエクスペリエンスを通して、
館主のこだわりや、ポリシーというものが感じられなかった点かも知れま
せん。全般に、商業主義というか、それに類する合理性と、今時の流行
旅館の雰囲気を手頃な按配で混ぜてみた、という匂いが、ちょっと煮え切ら
ない印象を与えているような気がします。一つ一つの要素は及第点なのに、
何となく全体としては「納得」という気分にならない。
旅館の宿泊客は、設備や調度、食事やサービス、果ては活けられた草花、スリ
ッパまで、あらゆるものを通して、その旅館の主人のもてなしへの哲学に触れ、
その背景にいる「一個人としての主人の主張」を感じるものと思います。
それが「旅館」と「ホテル」の一番の違いと思います。でも菊屋では、残念な
がらそう言った「主人の人格」を感じることができませんでした。
その理屈で言えば、ここは間違いなくホテルです。例えば箱根の富士屋ホテルに、
今風の新館を増築しました、と言われれば、「なるほどそうか、なかなかいいで
すね」と評価できます。でも、旅館には、そうではない、何か違う物が欲しいん
ですよねー。日本を代表する老舗旅館を謳うなら、なおのことです。
旅館って、やっぱり奥が深いかも。